【脱毛症Q&A】脱毛症専門医へのインタビュー

脱毛症QandAの画像

東京医科大学病院で脱毛症治療に尽力していらっしゃる、入澤先生にお話しを伺いました

脱毛症を発症した人たちの一番の関心事って何でしょうか?

きっとそれは、どうすれば脱毛症は治るのか?ということではないでしょうか。

残念ながら、現時点では”こうすれば必ず治ります”という治療法はありません。
けれども、この病気の色々な性格やいったい何が一番効果的な治療法なのかを知ることによって、私たち患者は後悔をしない選択ができるのではないでしょうか。

実際の脱毛症の治療の現場で、多くの脱毛症の患者さんと接している、東京医科大学の入澤亮吉先生にお話を伺ってきました。

プロフィール

入澤 亮吉 先生
1988年 東京医科大学卒業
1989年 同 皮膚科学教室入局
1990‐1991年 同 八王子医療センター免疫血液内科研修
1998‐2002年 厚生年金中央病院皮膚科
2002年 東京医科大学皮膚科勤務
2018年 同 講師

《専門領域》
皮膚腫瘍、脱毛症、褥瘡

入澤先生が外来で診ていらっしゃる病院・クリニック
東京医科大学病院 皮膚科
ワタナベ皮膚科
代々木上原クリニック

目次

脱毛症は再発することが多く、回数を重ねるごとに難治化する

Hand writing Alopecia with white marker on transparent wipe board isolated on blue background. Hair loss or baldness concept.

──入澤先生、今日はお忙しいなか貴重なお時間をいただきどうもありがとうございます。
早速ですが、患者さんたちが知りたいと思っていることをぜひ聞かせてください。

まず円形脱毛症になったら、直ぐに皮膚科に行った方が良いのですか?


入澤先生:脱毛症のタイプによって違ってきます。

単発型の脱毛(1か所だけ出来る、良くある円形脱毛症など)の場合は、ほうっておいても自然に治ることが多いのです。これは、皆さんが考える自己免疫疾患のタイプとはちょっと違うと私は考えています。

けれども、多発型のタイプ。脱毛が繰り返して出るタイプは、やはり自己免疫と関係しているようなんですよね。

ご存じだと思うけれども、繰り返して出る方はいっかい治っても、再発することが多いんです。再発して、それをほうっておくとダーッと広がる。そういうことが起きます。

ですので、以前に全頭脱毛を発症しているような患者さんには、「1個でもできたら直ぐに飛んできなさい。早めに治療を開始して抑えこんじゃうから」と伝えています。

──つまり、普通の方が円形脱毛症になった分には、あまり心配する必要は無い。
けれども過去に脱毛範囲が広く発症した経験がある方、そういう方は、すぐに治療を開始することで脱毛が広がるのを抑えられる可能性が高いということですね。

入澤先生:そうですね。治るわけではないけれども、日常生活を自毛で生活できるレベルでなんとかコントロールする。そんなイメージですね。

──生活していく上で食事とか、何か気を付けた方が良いことはありますか?

入澤先生:日本人の食生活で普通にご飯を食べている人。そういった方でしたら何か栄養素が偏っているとか、そういったことはあまり無いと思います。 もちろん偏ってる人は別ですが。バランスよく食べている人であれば、そう問題は無いと思います。

ただ、ある一部のドクター達が亜鉛のことを言っています。血中の亜鉛が下がっていると、免疫の病気になりやすいと。

脱毛症も免疫の病気なので、そういったことは注意して診ていった方が良いと思い、最近は初回の治療で血液検査をした時に亜鉛の血中濃度を一緒に計るようにしています。

もし低い時には、食事指導みたいなことが出来るかもしれませんね。ただ、治るといった事にはならないと思いますが。

──完治率はどうでしょう?

入澤先生:きれいなデータはないんです。

先にも言った通り、単発型の円形脱毛症は9割がた治ってしまいます。一部の人は多発型に進み、更にその一部の人は脱毛範囲が更に広がり、ひどい人は全頭型、さらにひどい人は汎発型になる。

そして悪くなるにしたがって、治癒率は下がって行きます

円形脱毛症は、急にアタックがきてザっと抜けちゃうって人がいるのですが、アタックを繰り返すごとにだんだん悪くなります。一回目は直ぐに治り、全部の毛が生えてきた。2回目は治るまでに半年かかった。3回目はもう全然生えてこない。そういう風になる傾向はあります。

全頭脱毛になっても、1回目は半々くらいの割合で生えてくるんです。2度、3度やるにしたがって治る確率がどんどん減っていきます。

──そうなんですね…。その理由っていうのはまだ解明されていないのですか?

入澤先生:まぁ、病気のことなのでね。

自分の体のリンパ球っていうのを制御する能力が上手に出来る人とできない人がやっぱりいるんでしょうね。

悪い白血球っていうのは、多分消えないんです。それを制御する白血球がどうやって上手に悪い白血球を制御できているのか、というのが問題なんです。

それが、分からない。発症の原因がストレスだと言っている人もいるし、それは分からないです。

──ストレスが原因の人もいるかもしれないですし、ストレスとは関係なく、出産のたびに脱毛症になったり、反対に授乳が終わると脱毛症が再発したりする人もいます。

入澤先生:一般的な話ですが、妊娠中は良くなる人が多いです。多分エストロゲンの関係だと思います。出産が終わり、授乳がひと段落して次の生理がくると、ドッカンと悪くなるんですよね。

一般的な治療の流れ

──一般的な治療の流れはどうでしょう。この治療法がいちばん効くという情報があまりなく困っている人が沢山いると思います。皮膚科が推奨とされる一般的な治療の流れはどうでしょうか?

入澤先生:日本皮膚科学会から、症状に合わせてこういった治療が良いです。というガイドラインが出ています。

──これですね!

日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版

──これをみると、推奨度が一番高い「A」というのが全くないのですが。良いと思っていても「B」だったり。

入澤先生:それはね、長いことやっている治療だと、円形脱毛症に対して臨床試験っていうものがなされていないからなんですよね。最近は厳しくなっていて、二重盲検という方法で、「何を使っているか分からない偽薬と比較をした上でちゃんと有意差がありますよ。」という厳しい試験を通って来たものだけが「A」のランクになるんです。

ところが、残念ながら古い薬はデルモベート*1にしても  SADBE*2にしても、大きな臨床試験が出来ないんですね。残念ながら「A」が取れない理由っていうのは、そういうことなんです。

*1 デルモベート:副腎皮質ホルモン(ステロイド外用塗布剤)よく脱毛症の外用薬として使われている。
*2 SADBE:局所免疫療法のひとつ。難治性の円形脱毛症の病変部に SADBE (squaric acid dibutylester)というかぶれを引き起こす物質を塗る治療法。

──一般的な治療の流れの話に戻ります。私の理解では、まず最初に皮膚科で塗り薬のフロジン、内服薬のセファランチン。それが治らなくて多発型に進んだら冷却療法、その次に紫外線、赤外線を当てたり…という治療をされる方が多いようです。

入澤先生:正直に言って、その辺の治療は僕はあまり取り入れていません。

──では、入澤先生がいちばん最初にする治療はなんですか?

入澤先生:25%以上の脱毛斑があって慢性的に続いている方ならば、局所免疫療法をまずやりますね。25%より少なくても局所免疫療法は使えます。最近はエキシマライトも保険の適用になったので、それを行うこともあります。

パルス療法は入院をしてやる点滴の事だと思うのですが、うちでは殆どやらないです。以前はずいぶんやったのですが、言うほど効かないんです。一度生えても、しばらくするとまた抜けるので。

私はどちらかというと、ステロイドは内服で使います。
内服も長く使うと副作用があります。髪の毛のために寿命を縮めるのもどうかと思うので。ただ、ガイドラインには3カ月位までと書いてありますが、私は4カ月かけて減量中止にもっていきます。

──B型肝炎ウイルスを持っていることを知らないでいた患者さんの場合には、ステロイドの内服することによって、B型肝炎が再燃してしまうリスクもあるようですね。

入澤先生:それを防ぐために、血液検査を最初にするっていうことになりました。

効果的な治療時期はある?

内服薬イメージ
内服薬イメージ

──効果的な治療時期はどうでしょうか?私自身、発症してから一年以内が治療の効果が高いと言われた経験があるのですが。

入澤先生:昔から神話のように言われるのですが、まぁ、当たり前っちゃあ当たり前なんです。

1回目は生えてくる。2度、3度重ねるうちに生えてきづらくなる。そういう人たちはそういった運命を持っていると思うんですね。

治療を長くやっていると、「一年以内に治療をした方が効果が高い。」そういったイメージは無くなってきます。

一年以内に治療をしたからと言って、治る人は治るし、治らない人は難しいと思ってます。だから、一年以内というのは医者の思い込みじゃないのかな、と僕は思います。

──脱毛時期というと、発症してから時間が経つにしたがって、発症初期はダーモスコープ(医療拡大鏡)で患部を見ると黒い点に見えているところが、時間が経つと、黄色点になると言われていますが、それでも時期は関係ないのでしょうか。

入澤先生:黒点の時に白血球がダーッと出てくるので、その時にステロイドを使うのが良いことは良いです。ステロイドの役目というのは白血球を抑えることですから。

黄色点になって、白血球がもうない。産毛しか無いという状態に進行するとステロイドも効きにくくなります。

でもね、ステロイド入れればやっぱり生えるんですよ。でも、辞めた段階で抜けちゃうんですよね。

ステロイドは現時点では副作用のことを考えるとずっと飲むという訳にはいきませんから。初回は効きやすいというだけじゃないかな?と思います。

最終地点。髪が生え戻ったか、それとも生えずに抜けたままかというのは、その人の持っているものに起因することが多いんですね。だから、ステロイドを入れてなくても、自然に治るということも考えられますよね。

──少し話はそれますが、サプリメントの摂取って効果的なのですか?サプリメントについて先生の考えを聞かせて下さい。

入澤先生:サプリって、あまりたくさん有効成分は入っていないので、悪さをすることはないかと思います。けれども、良いことも起きないと思う。もし自分でやるとするならば、血液検査をした上で、足りてないものを補充します。

──鍼治療については?

入澤先生:例のガイドラインにはDと書いてある。なので僕は特にはお勧めはしません。けれども、そいうのってエステと一緒で楽しければよいので否定もしません。
まぁ、鍼を使うということで、トラブルもあったのでどうしてもD判定になってしまうんですよね。

治療を受けるか受けないか。また受けるメリット

──患者からすると、積極的に治療をするか、全く治療をしないで自然に生えるのを待つか、を選ぶのはとても勇気がいりますよね。

入澤先生:そうですね。

例えば髪の毛がまだ5割くらい残っていて、バサバサ抜けている最中というのは、止めることができるんですよ。なんとかウィッグを使わずに元に戻すことができる。

──抜けるのを遅らせるというイメージですか?

治るのが、髪の毛が50%位の状態から100%に戻るか。全部髪の毛が無くなってから100%に戻るか。その差は、そこにウィッグを買う必要が出てくるかどうか。その差が違ってくるんですよね。そういった点ではメリットがあるかな、と思います。

──そうですよね。ウィッグを被るか被らなくてよいか。生活の質は全く変わってきますよね。

ただ、残念ながら将来の方向性が変わったわけでは無いとも思います。

新しい脱毛症の薬について

心地良いヘッドウェア

──話は変わります。新しい脱毛症の薬が何十年ぶりかにできたと聞きました。

入澤先生:そうです!

バリシチニブという一般名で商品名ではオルミエントという既に売られている薬です。現時点では、リウマチとアトピー性皮膚炎で保険が適用となっています。近日、脱毛症でも認可が下りると言われています。

──とすると、もうすぐ保険適用になるんですね!いくら位かかるのですか?


入澤先生:今は保険を使ってひと月5万円かかります。現時点で重症なアトピーを患っていれば使えます。

ほんとうに衝撃的な治療効果です。そしてステロイドと違って良いのは長く服用していても、副作用に忍容性があることです。ただし、薬をやめるとやっぱり抜けちゃうみたいです。

──新しい薬だと、副作用が心配です。癌になるかもというような心配はあるのですか?

入澤先生:報告があることはあります。ただ、一般的の発生率と有意差はないようです。リウマチではもう4年近く使われているのでね。

──そして、劇的に生えるって程度があると思うのですが。私たちの関心事は、果たしてウィッグ無しで生活できるかどうかなのです。

入澤先生:そうなんです!

今回の治験ではウィッグが取れるところまで行った人が成功という高いゴール設定にしました。そして、実際にウィッグが取れるところまで多くの患者がいったんですよね。

──実際に入澤先生も治験に関わっているのですか? 

入澤先生:はい。私は2人を受け持っています。2人とも凄い勢いで生えてきています。汎発型の方です。

──どれくらいで髪が生えてきたんですか?

入澤先生:薬を飲み始めてどれくらいで生えるか、というのは分からないのです。

というのも2mgの量の薬と4mgの量の薬、偽薬の3種類で治験をしていて、途中で薬剤の変更があります。誰が何を飲んでいるか医者も患者も分かりません。薬を飲み始めてからどれくらいで生えてきたかというのは、分からないのです。

──なるほど。でも、とても効果が高い薬なんですね。そうすると、あとは薬価の問題ですね。

入澤先生:一般的に適用拡大が起こるときに薬価が安くなることが多いので、安くなると良いですよね。

裏道というか、方法があります。

ひとつはトヨタとかNECなどの大企業に勤めていて 保険組合が付加給付制度を持っている保険に加入している方。付加給付制度がある保険だと毎月の医療費の自己負担額の上限が決まってます。そういうところにお勤めの場合は、その上限以上は払わなくてよくなります。後は保険会社が払ってくれるので。ただ、中々そういう人はいないですよね。

もうひとつは年収が770万円未満の人の場合は、高額医療を使って安くする方法があります。例えば薬をもらいにくる時期を3か月にいちどにする。最初は副作用が無いかどうか等を確認しなくてはならないのでダメですけど。副作用がないね、と確認でき、薬を長期間まとめて購入すると、自己負担限度額を超えます。そうすると1か月分の支払いをかなり抑えることができます。

──では新薬の保険が適用になった後の話ですが、その治療を受けたい人は専門的な病院に行くべきですか?

入澤先生:そうですね。白血球の力を部分的に抑えるので、持病として感染症を持っている人(肝炎や肺炎、結核とか)は除外をしないといけません。その辺の検査が必要となるので、クリニックでは厳しいかもしれません。やはり大学病院で何もないことを検査をすることが必要だと思い明日ます。その後は、一般のクリニックで薬をもらうことも可能だと思います。

──そうなると、多くの方が救われますね。

入澤先生:そうなんです。楽しみなんですよ。

お話を伺って

数十年ぶりに開発された脱毛症の新薬については、私たち脱毛症の患者にとって非常に明るい未来が見えてきたように感じました。

そして私自身の話になりますが、ひとつだけ脱毛症のことで後悔をしていることがありました。それは脱毛症を発症してからSADBEという割と効果が高いと言われている治療を行うまでに2年以上の月日が私の場合かかったのです。積極的に治療を行うまでに時間がかかったことが、今でも治る見込みがない原因なのではと思っていました。

入澤先生から、治療をしてもしなくても、治る人は治るし、治らない人は治らないと伺いました。そして今回改めて「あぁ、私はけっきょく髪の毛が無い人生を生きてゆく運命だったんだな」と腑に落ちたのです。改めて、じゃぁ、やっぱり髪の毛が無いことを私の強みにしていくしかないじゃないか!と決心がつきました。

今、この記事を読んでくれている方々にも、新薬についての希望や今後の治療方針について参考になれば幸いです。

Hazuki

3歳息子の母であり、このWEBマガジンの編集長。時々アパレルセレクトショップ勤務のファッションLOVER。26歳の時に頭からつま先まで全ての毛髪が抜け落ちる、汎発脱毛症になる。

よく転ぶし、失敗もする。そして落ち込む。モットーは『転んでもただでは起きない』。究極の精神的ケチである。

脱毛症になって10年以上苦しんだからには、この経験を人生のプラスにする為に、何ができるか?を考え始め、インスタグラムで自身の経験などを発信し始めた。

夢はSWW がVOUGE.JPに掲載されること。究極にオシャレで尚且つ最新の情報を発信できる存在となること。そして、沢山のヘアロスで悩む人達が一歩を踏み出すきっかけとなること。

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