脱毛症の治療は根本治療ではなく、対症療法です。
そして残念ながらエビデンスのある治療法は少ないのが実情です。
インターネットが発達した現在、科学的根拠の乏しい情報が氾濫しており、中には法外な金額がかかる治療法も少なくありません。どの治療を選ぶか、または選ばないかの参考にしていただくために、日本皮膚科学会がまとめた最新の治療ガイドラインを読み込んで、可能な限り理解しやすいようにまとめてみました。
その①ではまず脱毛症についてそのタイプの詳細や、ほかの合併症の有無、予後についてまとめてみました。その②では、各治療法についてをご紹介いたします。
脱毛症の概念と診断
頭部だけではなく、毛髪が存在するあらゆる部位に発生しています。
脱毛の数や範囲、形態によって以下のように分類されています。
- 単発型脱毛症:脱毛箇所が一か所のもの(多くの、いわゆる円形脱毛症)
- 多発型脱毛症:脱毛箇所が複数のもの
- 全頭型脱毛症:頭部すべての毛髪が脱毛したもの
- 汎発型脱毛症:頭部のみならず脱毛が全身に拡大するもの
- 蛇行型脱毛症:頭部の生え際が帯状に脱毛するもの
当ガイドラインでは、脱毛の範囲が25%以上のものを重症例と考え、推奨治療法を決定しています。
脱毛症の急性期と固定期
急性期の概念は、脱毛症状を自覚してから急速に脱毛箇所が拡大している時期です。ダーモスコープ(拡大鏡)で病変部を観察すると、感嘆符毛、黒点が多数みられる。症状を自覚してからおおよそ半年のことが多いです。
症状固定期は脱毛症状がおおよそ半年を超えた状況です。ダーモスコープで感嘆符毛(感嘆符、つまりビックリマークのように先が細くなっている毛)、漸減毛(毛直径が毛包方向に細くなる毛)、黒点(切れた毛髪の基部のこと)(図1参照)がまだ見られる病勢の強い状態が続く場合と、毛包周囲の炎症細胞浸潤が軽度となり、休止期に類似した状態で、ダーモスコープでは黄色点が中心となる場合があります。それぞれにおいて治療の反応は異なります。
脱毛症の病因・病態
毛包組織に対する自己免疫疾患と考えられています。
疲労や感染症など肉体的、精神的ストレスが引き金となるといわれることが多いのですが、明らかな原因がないことも多く報告されています。
多因子遺伝性疾患と考えられており、家族内発症が8.4%認められた調査も報告されています。また、アトピー性疾患との合併率も高いです。
脱毛症の合併症
ほかの自己免疫疾患(甲状腺疾患、尋常性白斑、SLE、関節リウマチ、I型糖尿病、重症筋無力症など)が合併することも報告されています。先にこの合併症の有無を確認するために血液検査などを行うこともあります。また、ダウン症患者では脱毛症合併率が高いとの報告もあります。
脱毛症患者47例中29例がアトピー性疾患(気管支喘息、アトピー性皮膚炎、軽度のアレルギー性鼻炎)のいずれかを合併し、脱毛症患者800例中187例(23%)がアトピー性皮膚炎を合併していたとの報告があります。
脱毛症と精神的ストレス
強い精神的ストレス後に脱毛症状を生じた症例もある一方、全く精神的ストレスを自覚しないで発症する患者も多いです。自然災害のようなストレス環境の下で行われた調査では、脱毛症の発生率や重症度に移行の有無について差はみられなかったとの報告もあります。(1999年8月と11月に起きたトルコ北西部の大地震での調査)
精神的ストレスの関与が明らかな症例の抽出が困難なので、脱毛症と精神的ストレスとの直接の関連性について科学的根拠は乏しいとされています。
ストレスホルモンを含む視床下部ー下垂体ー副腎皮質経路と毛組織との関係についての研究が行われており、今後の科学的根拠のある報告に期待したいと、このガイドラインでは記されています。
脱毛症の治療の予後について
イギリスなどの皮膚科団体のガイドラインによると、成人では脱毛面積が25%未満の場合は68%が、50%未満の場合は32%が回復するが、より広範囲の脱毛面積の場合は回復率はわずか8%でした。また、15歳以下で発症した場合や蛇行型の回復率も低いそうです。
急速に進行するが回復が早く短期的な場合は予後がかなりよいといわれています。ダーモスコープなどによる軟毛の回復所見が重要と記載されています。
当ガイドラインでは、これらのことを踏まえ、単発型もしくは数個程度の脱毛箇所の場合では、発症後1年以内は経過を観察するだけでも良いと書かれいます。また、何年も全頭型や汎発型の場合は、治療をやめることも選択肢の一つに挙げられています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。まだまだ解明されていないことが多い脱毛症ですが、自分で納得のいく選択をするために、病気について理解することは非常に重要だと筆者は考えております。
次の記事『日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版を読み込んでみた②』では、実際行われている治療法について紹介いたします。
出典元:日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版
この記事のエディター
Hazuki
3歳息子の母であり、このWEBマガジンの編集長。時々アパレルセレクトショップ勤務のファッションLOVER。26歳の時に頭からつま先まで全ての毛髪が抜け落ちる、汎発脱毛症になる。
よく転ぶし、失敗もする。そして落ち込む。モットーは『転んでもただでは起きない』。究極の精神的ケチである。
脱毛症になって10年以上苦しんだからには、この経験を人生のプラスにする為に、何ができるか?を考え始め、インスタグラムで自身の経験などを発信し始めた。
夢はSWW がVOUGE.JPに掲載されること。究極にオシャレで尚且つ最新の情報を発信できる存在となること。そして、沢山のヘアロスで悩む人達が一歩を踏み出すきっかけとなること。