前回では、『日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版』に記載してある脱毛症の病因やほかの合併症、治療の予後についてをなるべく分かりやすい言葉でまとめてみました。今回からは、実際の治療法と日本皮膚科学会が推奨する推奨度についてを2回に分けてご紹介します。
ステロイド局所注射療法
ガイドライン推奨度:B(行うように勧められている)
脱毛部分が頭部全体の25%未満の単発型、もしくは多発型の成人に行うように勧められています。(小児に関しては有益性と危険度を比較することができないこと、局所痛を伴うことから基本的には行われていません。)
治療の副作用として、注射をした部分に皮膚の萎縮や疼痛、血管拡張が報告されています。
局所免疫療法(SADBEもしくはDPCPを脱毛箇所に塗布する療法)
ガイドライン推奨度:B(行うように勧められている)
年齢を問わず、脱毛部分が全体の25%~49%以上ある多発型、全頭型や汎発型の症例に第一選択しとして行うように勧められています。(実際にインタビューさせていただいた入澤先生も、まずこの療法から試すことが多いとおっしゃっていました。)
脱毛部にSADBEあるいはDPCPという薬を塗布して、その部分の皮膚を人工的にかぶれさせる治療法です。かぶれによって引き起こされる種々の反応が毛に対する自己免疫機序を抑制すると考えられています。
SADBE療法を行う場合、通常2週間に1回程度通院をします。SADBE液を診察時に脱毛部に外用します。2~3日程度ムズムズかゆい、ないしはうっすら赤味がでる程度に濃度を調整していきます。
副作用は皮膚の炎症、局所的なリンパ節が晴れたり、頭痛、倦怠感、蕁麻疹、色素沈着や色素脱失などが挙げられています。皮膚をかぶれさせる療法なのでアトピー性皮膚炎を合併していると、その症状が悪化する可能性があります。
ガイドラインには保険適用ではないと記載されていますが、適用となる場合もあるそうなので担当医師に確認をとってみてください。
ステロイド外用療法(ステロイドの塗り薬を塗布する療法)
ガイドライン推奨度:B(行うように勧められている)
脱毛箇所が一か所、もしくは一つ一つが融合する傾向のない多発型の脱毛症に勧められています。
副作用として、ざそうや毛包炎に注意が必要です。長期間の使用により、皮膚の萎縮血管拡張や陥凹をきたすことがあるので、長期の投与はすべきではありません。
ステロイド内服療法(ステロイドの飲み薬を飲む療法)
ガイドライン推奨度:C1(行ってもよい)
発症後6か月以内で、急速に進行している脱毛箇所が全体の25%~49%以上の成人患者に機関を限定して行ってもよいとガイドラインには記載されています。
薬の内服をやめると再び脱毛が再発する可能性が高い。
隠れた既往があると、ステロイドの内服により重篤な副作用が現れることもあるので、治療の開始前に血液検査を必ず行うことが必要です。
静脈注射によるステロイドパルス療法
ガイドライン推奨度:C1(行ってもよい)
発症後6か月以内で、急速に進行している脱毛箇所が全体の25%~49%以上の成人患者に機関を限定して行ってもよいとガイドラインには記載されています。しかし再発例が多いことと、ステロイドによる副作用もあることを治療前にきちんと理解することが必要です。
この療法は、短期的には髪が生えることが多く有効ですが、療法をやめると再発例がとても多いので、現在この治療法は臨床現場ではあまり積極的に行われてはいないようです。
副作用として、肥満、満月用顔貌(ムーンフェイス)、緑内障、糖尿病、月経不順、消化器症状、ざ瘡、骨粗鬆などが挙げられています。
ステロイド内服療法と同じように、隠れた既往があると重篤な副作用が現れることもあるので、治療の開始前に血液検査を必ず行うことが必要です。
抗ヒスタミン薬の内服療法
ガイドライン推奨度:C1(行ってもよい)
単発型と多発型の脱毛症に併用療法として行っても良い。
海外からの報告はありませんが、日本で全部で6件の症例や試験報告があります。光線療法や非ステロイド軟こう、局所免疫療法と併用して抗ヒスタミン剤の内服を行ったところ、改善が脱毛範囲が縮小する改善が見られました。アトピー素因がある患者で、脱毛面積50%以上の34例に局所免疫療法のみ、33例には局所免疫療法とフェキソフェナジンという抗ヒスタミン薬の併用を行ったところ、併用した患者たちの方が有意に改善されたとの報告もあります。
これらのことから、第2世代抗ヒスタミン薬内服の発毛効果に関してある程度の根拠があると考えられます。アトピー素因をもつ単発型及び多発型の症例に、併用療法の一つとして推奨しています。
しかし、このガイドラインが作成された2017年当時では抗ヒスタミン薬の脱毛症への保険適用は認められていないため、アトピー性疾患の背景を診断する必要があると記載されています。
セファランチン内服療法
ガイドライン推奨度:C1(行ってもよい)
単発型および多発型の症例に併用療法のひとつとして行ってもよい。
セファランチンを内服した場合と、セファランチンとプレドニゾロンというステロイド薬を一緒に内服した場合を比較した研究にて、ステロイド薬の内服したかにかかわらず、セファランチンの内服で脱毛範囲が縮小することを示す弱い根拠が見出されています。その他にも様々な併用療法を用いながら、セファランチンの発毛促進効果を示した報告もあります。
保険適用があることや、膨大な診療実績により安全性が確率されていることも考慮し、単発型及び多発型の症例に併用療法のひとつとして行ってもよいと記載されています。
グリチルリチン、グリシン、メチオニン配合錠(グリチロン)の内服療法
ガイドライン推奨度:C1(行ってもよい)
単発型および多発型の症例に併用療法のひとつとして行ってもよい。
グリチロンの発毛促進効果を評価する報告は限られているが、保険適用があることや膨大な診療実績により安全性が確率されていることを考慮し、単発型および多発型の症例に併用療法のひとつとして行ってもよいと記載されています。
カルプロニウム塩化物の外用療法
ガイドライン推奨度:C1(行ってもよい)
単発型および多発型の症例に併用療法のひとつとして行ってもよい。
商品名をフロジンといい、脱毛症または尋常性白斑の治療に用いられる外用医薬品です。局所血管拡張作用を持つ他、毛嚢への作用があり、発毛を促進します。
カルプロニウム塩化物の有益性は限られた研究報告のみであり、現段階では十分に実証されているとは言えません。けれども、保険適用があることや膨大な診療実績により安全性が確率されていることを考慮し、単発型および多発型の症例に併用療法のひとつとして行っても良いと記載されています。
ミノキシジル外用療法
ガイドライン推奨度:C1(行ってもよい)
単発型および多発型の症例に併用療法のひとつとして行ってもよい。
合計155例を観察した、4件の比較試験でプラセボや比較試験より弱い濃度のミノキシジル外用剤に比べて脱毛範囲が縮小させることを示唆する弱い根拠が見出されています。けれども、ウィッグ無しで脱毛範囲が分からず生活できるくらいの十分な効果は得られず、広範囲に脱毛している場合には無効でした。50%以上の脱毛斑がある患者には効果がありませんでした。
以上のように、引用論文のレベルは高いが、ミノキシジルの有用性は現段階では十分に実証されておりません。しかし、海外における診療実績も考慮し、委員会でも検討結果、単発型および多発型の症例に併用療法のひとつとして行っても良いと記載されています。
冷却療法
ガイドライン推奨度:C1(行ってもよい)
単発型および多発型の症例に併用療法のひとつとして行ってもよい。
7件の非ランダム化比較試験などにより、雪状炭酸または液体窒素を患部にあてると治療前と比較して脱毛範囲が縮小することを示唆する弱い根拠が見出されております。さらに2017年に行われた研究では、液体窒素をスプレーで脱毛部に噴射すると、約6割の患者で効果が認められたと報告されています。
以上のように、冷却療法の発毛効果に関しては低い水準の根拠が存在するが、液体窒素が圧抵式とスプレー式のどちらがより有効かについて未確定であることも含め、冷却療法の有用性は現段階では十分に実証されていません。
そして、2017年の段階でこの治療方は保険適用外です。けれども簡便で副作用も軽微な点も考慮し、単発型及び多発型の症例に併用療法のひとつとして行っても良いと記載されています。水泡形成や強い疼痛を生じない程度の実施が推奨されています。
紫外線療法(PUVA療法・エキシマライト・narrow-band UVB療法)
ガイドライン推奨度:C1(行ってもよい)
症状固定期の全頭型や汎発型の成人例に対してPUVA療法を行ってもよい。また、全ての病型の患者にたいしてエキシマライトまたはnarrow-band UVBを行ってもよい。
PUVA療法(ぷばりょうほう)は、薬剤のソラレン(Psoralen)と長波長の紫外線(UVA、紫外線A波)を併用する光線療法です。ソラレンを外用するか内服するかの2種類の方法があります。
ナローバンドUVB療法は、紫外線B波の帯域を絞ったものでソラレンは使いません。
内服および外用PUVA療法では脱毛範囲が縮小することを示唆する弱い根拠が見出されていますが、再発率が高いことなどから臨床的意義を疑問視する見解もあります。有益性は現段階では十分に実証されていませんが、症状固定期の全頭型や汎発型の併用療法のひとつとして行っても良いと記載されています。
エキシマライトは、PUVA療法やナローバンドUVBの紫外線療法よりさらに効果の高いと言われている308nmの紫外線を患部に照射して処置する最新の光線療法です。308nmを選択的に照射することで、従来の紫外線療法(PUVA、ナローバンドUVB)よりも少ない回数で改善効果を認めやすく効果の持続も長いと言われています。また従来の紫外線療法で改善しにくかった皮膚病変にも効果があることが確認されています。
エキシマライトに関しても、今までの試験や研究では脱毛範囲が縮小することを示唆する信頼性の弱い根拠が見出されていると、このガイドラインではあまり積極的に推奨されていませんが、大きな有害事象がなく、安全性と利便性が高い点をふまえて、全ての病型にたいしてエキシマライトを行っても良いと記載されています。
尚、これらの療法は2017年の時点では保険適用外となっております。
直線偏向近赤外線照射療法
ガイドライン推奨度:C1(行ってもよい)
単発型および多発型の症例に併用療法のひととして行ってもよい。
スーパーライザー療法とも言います。これは、赤外線が体内の奥深くまで届くよう、特殊なものを使って治療するものです。もともと自律神経を刺激するもので、円形脱毛症だけではなく、神経のあらゆる治療に使用されていました。アレルギーなどにも効果があるとされ、自己免疫治療の1つとして、円形脱毛症にも用いられています。
2件の比較試験がおこなわれ、単発型や多発型の症例に、他のクスリを併用しながらスーパーライザーを照射した場合に、照射部位では非照射部と比較して50%以上の発毛回復期間が短縮することを示唆する弱い根拠が確認されています。けれども、プレドニゾロン内服、ステロイド外用、全身PUVA療法を併用した全頭型や汎発型には無効でした。
レーザー治療、PDT
ガイドライン推奨度:C2(行わないほうがよい)
PDTとは、Photo Dynamic Therapyフォトダイナミックセラピー 光線力学的治療の略語です。生体内に光感受性物質(光増感剤)を注入し、標的となる生体組織にある波長の光を照射して光感受性物質から活性酸素を生じ、これによって癌や感染症などの病巣を治療する術式。癌治療などの他、美容皮膚科などの治療で使われておりますが、脱毛症には有効性を示す根拠はないと記載されています。
まとめ
今回の記事では、比較的治療が推奨され実際の医療現場で使われている治療法を紹介いたしました。これらはすべて対処療法であり、それぞれ十分な効果がなかったり、あったとしても治療をやめると再発する可能性が高かったりと、脱毛症患者にとってシビアな治療状況ではあります。しかし、このガイドラインで記載されている以外にも、新しく開発された新薬も出てきており、今後の治療効果に期待が持てます。
次回の記事『その③』では、実際の臨床現場ではあまり推奨されていませんが、ガイドラインにて記載があった少し珍しい治療法をご紹介いたします。
出典元:日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版
Hazuki
3歳息子の母であり、このWEBマガジンの編集長。時々アパレルセレクトショップ勤務のファッションLOVER。26歳の時に頭からつま先まで全ての毛髪が抜け落ちる、汎発脱毛症になる。
よく転ぶし、失敗もする。そして落ち込む。モットーは『転んでもただでは起きない』。究極の精神的ケチである。
脱毛症になって10年以上苦しんだからには、この経験を人生のプラスにする為に、何ができるか?を考え始め、インスタグラムで自身の経験などを発信し始めた。
夢はSWW がVOUGE.JPに掲載されること。究極にオシャレで尚且つ最新の情報を発信できる存在となること。そして、沢山のヘアロスで悩む人達が一歩を踏み出すきっかけとなること。